空飛ぶかめ

小学校での実践について、あれこれ記録します。

新学習指導要領を読み解く〜学習の転移は簡単じゃぁない〜

 

「資質・能力」と学びのメカニズム

「資質・能力」と学びのメカニズム

 

 

 学習指導要領が改訂された今、この本は絶対読んだ方が良いです。今年度で1番読み応えがありました。付箋を貼りながらkey wordと自分の問いをメモしているのですが、その付箋の量が・・・半分しか読んでいないのに15枚w 次々と問いが生まれ、多くの気づきがあって、今後の教育実践の方向性を示してくれます。自分の実践に自信を持てる方もいらっしゃるでしょう。

 

シリーズものとして、本書で学びになったことをまとめていきます。

今回のテーマは「学習の転移の難しさと状況に埋め込まれた学習」です。

 

 第2章「資質・能力を基盤とした教育」では、過去の学習指導要領の内容を振り返りつつ、現在の方向性へと変わっていた経緯が分かりやすく解説されています。かつて詰め込み教育と呼ばれた内容中心の教育も、子どもを優れた問題解決者にまで育て上げようとしてきたという話でした。以下、引用です。

内容中心の教育では、学問・科学・芸術などの文化遺産から知識・技能を選りすぐり教授することにより、子供を優れた問題解決者にまで育て上げることができると信じ、現に実行してきたのです。なぜなら、それらは人類が成し遂げてきた最も偉大にして洗練された革新的問題解決の成果であり、子どもたちは習得したそれらの知識を適時上手に活用することで、同様の優れた問題解決を成し遂げながら人生を生きていくのだろう、と考えたわけです。さらには、たとえば数学的知識の習得は子供に厳密な形式論理操作を要求しますから、そこでは思考力や判断力も培われ、それらは数量や図形はもとより、社会的事象の構想的把握や批判的吟味にも確かな礎を提供するに違いない、と信じて疑いませんでした。

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 このことから、当時の内容中心の教育は「何を知っているか」を問うことだけで、問題解決者を育てることが可能であると信じられていたとし、さらに筆者は次のように言います。

つまり、「何を知っているか」それ自体にも十分に価値はあるのですが、さらにそのことがほぼ自動的に「どのような問題解決を現に成し遂げるか」を保証し、ひいてはその子の人生における成功を支えると信じてきたわけです。だからこそ、領域固有知識の教授と習得状況の確認が学校と教師にとって最大の関心事であり、力の入れどころでもあり続けてきたのです。*2

 しかし、内容中心の教育が頼りにしていた論理は、心理学の分析(状況に埋め込まれた学習)や子どもたちの実態から崩れてしまうことになります。筆者は具体例として、「A問題とB問題の得点差」と「知性ある大学教師の失敗」を挙げています。

 

たとえば、同じ平行四辺形の面積に関する知識を適切に用いれば正当できる問題であるにもかかわらず、授業で教わった通りの尋ねられ方をするA問題の正答率が96%だったのに対し、図形を地図中に埋め込んだB問題では18%でした(平成19年度全国学力・学習状況調査)この事実は学習の転移が簡単には生じないことを物語っています。その後の研究は、ある知識が自在に活用されるには、どのような問題場面にどのような理由で適用可能なのか、適用条件は何で、どのような変換を施す必要があるのかまで伴っている必要があることを明らかにしてきました。すでに繰り返しお話してきた通り、知識は単に所有すればいいのではなく、その質が決定的に重要なのです。*3

 このような事実から、筆者は数学学習が論理性や思考力を鍛えるという例を持ち出すのは、慎重にならざるを得ないこと、たとえそうであったとしても、たとえば数学の専門家は24時間、すべての生活において論理的に思考して暮らしているのかというと、必ずしもそうとも言えないと述べています。さらに大学教師のたとえ。

 

このことは数学の専門家に限りません。特定の領域で高度な知的操作の訓練を受け、それを職業としている大学教師が日常の社会生活において、しばしば人々から失笑を買うような行動や発言をしてしまうのは、その高度な知性がさほどの領域的広がりを持たないこと、対象を問わず縦横無尽に働くようなものではそもそもないことを示唆しています。

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 日常の社会生活では感情が自分の知的操作や倫理性に影響を与えることもあるので、これだけで高度な知性が領域的広がりを持たないとは言い切れないだろう。筆者自身も「さほどの」「縦横無尽に」と表現されているので、ここは誤解のないようにしたい。私の身近には、事実と数字で物事を考える超理系人間がいます。でもそれは、自分の知性をいろんな場面で使い分ける、そのような思考をする習慣を積み重ねてきたからできることなのでしょう。

 

最後に、この章では今後の学びの方向性を次のようにまとめられています。

人間の知性や学習というのは、それくらい領域固有なものであり、文脈や状況に強く依存しているのです。1980年以降、このことを心理学は、状況に埋め込まれた学習と表現してきました。もっとも、これは子供たちの学びづくりにとって福音でもあります。現状ではどうにも勉強が苦手な子たちも、同じ学習内容を、日々の暮らしや遊びを通して彼らが慣れ親しんでいる文脈なり状況に埋め込んでやるだけで、驚くほど楽々と、目を輝かせて学び深めることができたりするのです。

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 今回の学習指導要領をさっと読んだ感想ですが、より資質能力に対する要求が高まった印象を受けます。「何を知っているか」から「何を理解しているか」、単なる知識・技能ではなく、質の高い「生きて働く知識・技能」への変化や、「未知の状況にも対応できる」という言葉が付け加えられている点からも感じられます。ゆえに「状況に埋め込まれた学習」でとどまるのではなく、「状況に応じて、身に付けた知識・技能を適切に使うことができる力」といった汎用的な力を育むためにできることは何かを考えていかなければなりません。その方法の一つが「カリキュラムマネジメントによる教科横断的な学び」なのでしょう。

 

まだ半分しか読めていませんが、新学習指導要領を読み解くためには必須の本だと思います。特に学習指導要領を難しいと感じる方は手元に1冊置いておくことを勧めます。

 

 

 

 

*1:「資質・能力」と学びのメカニズムより

*2:「資質・能力」と学びのメカニズムより

*3:「資質・能力」と学びのメカニズムより

*4:「資質・能力」と学びのメカニズムより

*5:「資質・能力」と学びのメカニズムより