空飛ぶかめ

小学校での実践について、あれこれ記録します。

新学習指導要領を読み解く~汎用的な思考の道具~

 

「資質・能力」と学びのメカニズム

「資質・能力」と学びのメカニズム

 

 

汎用的な思考の道具を整理して手渡す。

5年生社会科「暖かい地方の暮らし」の授業のことです。「石垣島では、なぜサトウキビづくりが盛んなのか」が今日の学習課題だったのですが、授業の冒頭である子供が「先生、石垣島なんて行ったことがないからわかりません」と発言したのです。思わず笑いましたが、笑いごとではありません。 

 

 1年目の5年生。沖縄の学習のときに、子ども達の「俺ら大阪に住んでるのに、沖縄なんて関係ないやん」という言われたことを思い出しました。それを受けて、私は何と言ったかというと、あんまりはっきりとは覚えていないのですが、ある程度同調し、こんな感じで返したと思います。

 

「分かるわかる。先生も沖縄は行ったことないからなぁ。でもまぁ、素敵な場所やし、せっかくやから沖縄について詳しくなろうや」と。

 

 このときの私は、社会科という教科で身に付けさせる力やこの単元で何を学ぶのか、全く分かっていませんでした。ですから、沖縄からサトウキビを取り寄せてみんなで食べてみたり、エイサーの動画を見たりと、気を引くための授業をしていたのです。授業の目的を後付けするならば、「沖縄について詳しくなってほしい」といったところでしょうか・・・。

 

筆者は、社会科を学ぶ目的と理想の学習者の姿を次のように述べていました。

 

行ったことがない地域のことまで予想でき、さらにその予想が妥当かどうかをかなりの程度まで詰めていけるようにするのが、社会科なのです。その授業では、結果的に「先生、雨温図を下さい」と言うまでに15分かかりましたが、そんなことをしているから、教科書が終わらないのです。私としては、学習問題が確認されてから1分以内に「先生、とりあえず雨温図を下さい」と言える子供にしたいと思います。

 

3・4年生でも他の地域を題材とした地理の学習で、子ども達はその地域の立地条件について学んでいます。でも、その知識を生かせていない場合は多いし、教える側の教師もその意識は希薄です。

 

その立地条件にはどのようなものがあるのか、俯瞰的、自覚的に整理・統合されていないのが現状と言います。だからこそ、子ども達はサトウキビやその他の特産物を別個のものとして、新たに一から考えようとするのです。私としては、少なくとも国土と産業について系統的に学ぶ5年生段階では、立地条件には自然条件と社会条件の二つがあること、そしてそれぞれはたとえば以下のように整理できることを、しっかりと時間を取って明示的に指導してはどうかと思います。

 

筆者はここで立地条件の具体例を述べています。

 自然条件:気温、降水量、土壌、地形、資源・・・

 社会条件:市場、労働力、技術、歴史、交通・・・

 そして、カギとなる概念を子ども達に指導し、それを続く産業学習でも活用させる。すると、次の工業学習では、自動車や精密機械の工場の立地条件について調べる中で、自然条件よりも社会条件が影響していることに気づくことができると・・・。

 

 つまり、地理的な課題解決のためには次の知識・技能が必要なわけですな。

  • 「立地条件」という視点が必須であること。
  • その「立地条件」には自然条件と社会条件があるとういこと。
  • 自然条件を把握するツールの1つに「雨温図」があること。
  • 「雨温図」が読み取れること。
 これらの知識・技能が身についていれば、異なる特色の地域における「なぜ~では、○○の栽培が盛んなのでしょうか」という課題が仮にあったとしても、「先生、雨温図があれば解けるのですが・・・」という一言が出てくるのでしょうか
 
いやぁ、レベルが高いっす。
サトウキビ食べている場合じゃねぇw
 
 でも汎用性のある思考力というのはこのような力のことを言うのだろう。その地域の地形や雨温図を見ることで、土地や気候の特徴をつかむ。地形と気候の特徴は、その土地の特産物と関連しあっている。小学5年では山地や低地、温暖多雨や寒冷多雪などの特色のある地域について学んでいきますが、それぞれの地域を別個に捉えるのではなく、俯瞰的に捉えれるようにする。すると、別々で捉えていた各小単元の学びがつながってくる。こんな状態で学べる学習者はきっとこんな対話をしながら学習を進めるのかな。妄想たーいむ。
 
高地の学習
「長野県は北海道と平均気温の変化の仕方は似てるけど、降水量が多い。なんで?」
「山が多いからだよ。山の天気は変わりやすいって言ってたやん。林間学習の説明会でさ」
「あー、でもなんで山だと変わりやすいの?」
「えーっと、それは・・・あっ、季節風だ!山にぶつかると雲ができやすくなってってやつ。勉強したやん」
「あー!季節風か!だから北海道とは違うのか」
 
寒冷地の学習
「この地域は雨温図を見ると、平均気温が一番低いときは気温が0度にも満たないときがあるね。確かじゃがいもは北海道産が多いけれど、寒い場所で育てやすいってことかな?」
「じゃぁ、ロシアとかも寒いからジャガイモ多いのかな?」
「PCで調べてみようぜ!あっ、世界のジャガイモの産地ランキングベスト3にロシア入ってる!やっぱ寒いところはジャガイモ育てやすいんやって」
 
 
小学5年の社会科って面白いやん!
 
 
おっと、話がそれましたが、その教科で学ぶべきことは学習指導要領に書かれています。ですが、その教科で身に付けさせたい汎用的な思考の道具というのは、一見詳しくは書かれていないように見えます。でも本書を読んで、もう一度学習指導要領を見るとうっすらぼんやり見えてくるのです。だってこんな記述がありますから。
 
国土の自然環境の特色やそれらと国民生活との関連を考え、表現するとは、例えば、我が国の位置や地形、気候の側面から、我が国の国土の自然環境の特色を考えたり、特色ある地域の自然条件と人々の生活や産業を関連付けて考えたりしたことを基に、文章で記述したり、説明したりすることである。 *1
 
で、大切なことはこの太字部分をどう学ばせるのかです。
 
もし、そこを自分から主体的・対話的に学ばせたいのであれば、汎用的な思考の道具を子どもたちに与える必要がある。何を与えるかは、教える側の僕たちがきちんと整理しておく必要があるでしょう。ツールを使える子ども達は、自分達で学んでいけるはずです。
 
 まぁ、でもレベル高いな・・・。子どもたちの実態によっても変わってくるだろうし。でも、課題に対して「○○があれば解けることができます」って言える子どもたちを育てたいですよね。たくましいやん。自立してるやん。
 
これこそ、教師の授業設計力・腕の見せ所、ですね。
 
 

*1:小学校学習指導要領平成29年解説 社会科